1/1ページ目 約束の時間より30分送れて加恋がにんまりとした笑顔で入ってきたとき、千佳は「これは何かあるぞ」と思った。 「千佳、あんがとう! やっと裏ページのパスワードが見つかったよ! 千佳の教えてくれた通り言葉を数字に直すとOKだった。『いくじなし』が191074」 向き合って座るなり、悪びれる様子もなく一気に言葉を吐き出した。 「え、と言うことは……」 「そう、千佳がオフ会に付き合ってくれるっていうこと」 加恋のうきうき気分をよそに、千佳は表情を曇らせた。 「ところで、彼女遅いよね。来ないんじゃないのかなあ?」 ふと思い出したように、加恋が洩らす。 「ケータイで話した限りじゃ、まじめそうな感じだったんだけど……何か来れなくなった事情があるのかな?」 「でも、それだったら、普通連絡してくるよね。あたしだってさっきメールで知らせたんだから」 「じゃ、こっちからメール送ってみる」 千佳がメールを打ち始めると、加恋はふと窓の外に目をやる。 ハンバーガー屋の3階の窓際席からは、通りの様子がよく見える。 ちょうど桜祭りの真っ最中で、本来なら捨てられてしまう、剪定された桜の枝が、店舗のウインドウディスプレイに使われ、可憐な花を咲かせている。 高校生らしきグループが向かいのビルに入っていく。 2階のカラオケ店にでも入っていくんだろう。 「春休み中も部活やってんだろうな」 加恋がぽつりと漏らす。 しばらく待ってもメールの返答が来ない。 「もう行こう。外に出たら電話してみようよ。ここでケータイで話すのってマナー違反でしょ」 千佳は携帯をつかんで立ち上がる。 二人は人通りの多い広い通りからその細い路地裏に入る。 昼下がりの飲食店街は、閉まっている店が多い。 「ここなら落ち着いて電話できるね。おっとっと」 ガシャン! 店の外に置かれた自転車は、加恋が軽くぶつかっただけで倒れてしまった。 「もしもし、神園さんですか?」 千佳は降りたシャッターに寄りかかり、携帯の電話帳から電話する。 「はい、そうです」 信じられないという表情で加恋を見る。 昨日発信履歴から電話帳に登録した番号だから、間違っているはずがない。でも、声が別人なのだ。 千佳は、どうにか動揺を声に出さないように努める。 「あの〜、阿梨沙さんとは違いますよね? 4日前にこの番号に掛けて、阿梨沙さんと話したんですけど、阿梨沙さんは?」 「さあね」 幾分ハスキーな声がぞんざいに答えた。 「あなた家族ですか?」 「そう言うあなたこそどなた?」 今度は逆質問してきた。 「あたし今日阿梨沙さんと会う約束してた綾瀬千佳ですけど……あなた、阿梨沙さんのお姉さん?」 「まあ、そういったところかな?」 「じゃあ、古宮翔太さんについて何か知っていますか?」 「失踪中だってこと以外は何も知らないけど……」 そのまま切られてしまった。 「同じ番号に掛けたのに、今日は違う人が出たよ。阿梨沙さんと話せなかった」 千佳はがっかりしたような声を出した。 「うふふ、何か裏がありそう。ますますおもしろくなってきたねえ」 加恋の目がいたずらそうに輝いた。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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