小説
長門有希の乙女

俺の周りには訳の解らん奴らが沢山いるが、一番訳が解らないのは長門だな。
何しろ無口。
宇宙人ってそんなもんかもしれんが、長門は異常なまでに無口なんだな。これが。
話しかけても、即答か、無言かのどちらかだから困ったもんだ。これじゃあ話しかけるのが結構怖いぞ。(俺はかなり慣れたがな。)

そしてもう1つ。
本としか関わらないことだ。
長門にとっては本が友達みたいなもんだ。いや、「みたいな」ではなく、リアルに本が友達なのかもしれん。
長門が普通だったらかなりもてたんだろうなぁ・・・。

そんなことを考えながら俺は部室のドアをあけた。

長門1人が、パイプ椅子に座って本を読んでいた。
俺が入ってくるのに気付くと、チラリとこっちを見て、また本の世界にはいった。

そういえば、他の3人はどこ行ったんだろう。
ま、朝比奈さん以外は戻ってこなくてもいいとしよう。
それにもうすぐ期末テストもあることだし・・・、勉強でもするか。


やっぱ勉強はダメだ。
つづかん。
俺は勉強を取りやめることにした。
長門はさっきと同じ姿勢で本を読んでいる。暇だったから聞いてみた。
「なぁ長門。」
「なに」
即答。
「何の本読んでんだ?」
「・・・・・」
?返事がない。長門にしては珍しい。
「おい、長門?どした?」
「・・・・恋愛・・小説・・」
微かにそう言った。
俺は自分の耳を一瞬疑ったね。
あの長門が恋愛小説を読むとは。意外すぎた。長門にも乙女心が芽生えたのか?
とにかく、なぜか俺は自分の娘が成長したのを喜ぶ親父のような気分になった。
長門は、たぶん頬をピンク色に染めていたと見たな。俺は。




その時。
なぜか。
眼の前が真っ暗になり。
意識が遠のくのが解った。



暗い。
暗闇の外で、声が聞こえた。



「馬鹿っ!!キョン!!!」
誰だ。うるさいぞ。
「大丈夫ですかね?」
なんだ、この耳障りなボイスは。
「起きてくださいィィ!」
む。この可愛らしい声は・・。


まぶしい光と供に、3人の顔のドアップが俺の視界に入った。

「おわぁっ!?」
驚きのあまりこえが上ずった。
ハルヒが、怒り顔で叫んだ。
「あんた!私たちがいないのをいいことに、なに部室でぐーたら寝てんのよっ!?馬っ鹿じゃないの?気がたるんでるのよ!気が!もう今日はおしまい!」
そういってどこかへいってしまった。そして、朝比奈さん等も帰っていった。

はて。

俺は困ったことに、寝る前の記憶が完全に抜けていることに気付いた。
反射的に長門を見た。長門なら、何か知ってるかもしれない。
「長門。」
「悪かった。」
は?何故に長門が謝る?
「どういうことだ?」
一応聞いてみる。
「・・・・。」
長門は、少し戸惑っているように見えた。
「私は、自分の都合によりあなたの記憶を一部削除してしまった。謝らなくてはならない。」
よく解らん。
「意味が・・よく理解できん。」
「っ・・・・私が、自分の恥じらいを防いだ。それだけ。」
恥じらい?むぅ?
「・・・このことは、忘れて・・・・。」
力なく長門はそう言った。
まぁ、いいか。
「長門、もういい。気にしないから、長門も気にするな。」
長門は、ゆっくりうなずき、
「ありがとう。また明日。」
そう言って、静かに本を閉じて部室を出た。



帰り道、俺は心底、かなり不思議な気分だったが、そういうことは受け流すことにした。
それにしても、今日の長門、結構可愛かったな。

覚えてないのだが、長門が頬をピンク色に染める所を、見たような気がする。
いや、気がしただけかな。



今日、無口な宇宙人と少し距離が縮まったのかな、と俺は思う。


・・・END・・・

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