石丸進一（いしまるしんいち 1922年7月24日生）［プロ野球選手］
1922年7月24日、佐賀県佐賀市の理髪業石丸金三の五男として生まれる。父は自身が苦労人であった事から、「子供にはまともな教育を受けてほしい」と一心に思い、教育資金調達の為に方々で借金をし、挙句の果てはその借金を一気に返そうとして株に手を出してしまい、失敗。更に借金を膨大させてしまう。のちに兄・藤吉とともにプロ野球の道を歩んだのは、こういった経緯があったらしい。尚、この借金は進一が学徒出陣する直前に完済している。
兄・藤吉の影響で野球を始め、その後、兄が通っていた佐賀商業に入学し、2年生から速球派のエースとなり、「石丸のワンマンチーム」と言われるほどの活躍を見せる。だが、1939年、甲子園出場がかかった予選である佐賀大会の決勝戦では、試合が始まる寸前、疲労を予防する為に飲んだ梅酒に酔っ払ってしまい、力を発揮出来ずして、対戦相手の唐津中学に2-1で敗退し、翌1940年でも佐賀商業は佐賀大会で決勝まで進出するも、前年と同じ対戦相手である唐津中学に4-0で敗れ、在学中は甲子園出場が叶わなかった。
佐賀商業卒業後、召集先の中国にいる兄に血判を押してまでしたためた、名古屋軍（中日ドラゴンズ）入団志願の手紙を送り、それを読んだ兄が当時の名古屋軍の球団代表であった赤嶺昌志に進一を推薦した事により、1941年、晴れて名古屋軍に入団。兄・藤吉とともにプロ野球初の兄弟選手となった。
入団1年目は兵役で離れている兄の代役ということで、内野手として73試合に出場し、打率.197、本塁打0、打点8の成績を残した。内野手としてプレーするかたわら、煙草の銀紙を丸めて作ったボールで手首を鍛え、投手としていつでも出られる様にしていたという。その思いが通じたのか、兄・藤吉が復帰した事もあって2年目からは投手として出場し、1942年4月1日の対朝日戦で、持ち前の速球と針の穴を通すほどの抜群のコントロールでもって、初登板初先発で僅か2安打の完封勝利を飾り、また7月12日、対巨人戦でその時の巨人の先発であった、当時のプロ野球最強投手である須田博と投げ合って1-0で勝利を飾るなどをし、17勝19敗、防御率1.71と奮闘。この年名古屋軍は105試合で39勝であるため、勝利数の4割強を稼ぐという、まさに獅子奮迅の活躍だった。
3年目の1943年10月2日の大和戦では5-0で戦前最後となるノーヒットノーランを達成。最後の勝利は同年10月6日、最後の登板は翌日の10月7日で、4回14人の打者を無四死球4安打2奪三振自責点0に抑える。この年、成績でも20勝12敗、防御率が1.15と前年以上の好成績を収め、チームを2位にまで躍進させる事に貢献した。
前述の父の借金を返すべく、進一は当時の平均月収の倍以上を貰っていた給料のうち、約8割を父の借金の返済に充てていた。その為か、試合前に他のチームの選手達と食べ物の話をしていた時、「自分はコーヒーも飲んだ事が無い」と漏らしたほど、ギリギリの生活を送っていたらしい。
選手ながら兵役を免れる事を目的に、日本大学法科夜間部に在籍していたが、1944年春に学徒出陣により召集される。海軍飛行科を希望し、第14期飛行専修予備学生として筑波海軍航空隊に配属され、翌年の1945年2月に神風特別攻撃隊に志願し、特攻要員となる。特攻訓練を受けた後の4月末、鹿児島県の鹿屋基地に転進する。5月11日の菊水六号作戦発動に伴い、石丸は神風特別攻撃隊「第五筑波隊」隊員として爆装零戦に搭乗、沖縄方面の米機動部隊を目指して出撃し未帰還となった。なおこの日、第五筑波隊からの突入打電は無かったため、途上で米軍戦闘機隊の襲撃を受け撃墜されたものと推定されている。
出撃前に同僚の本田耕一（法政大学出身 内野手 5月14日神風特別攻撃隊「第六筑波隊」隊員として出撃、戦死）とキャッチボールをしたというエピソードなどを書いた『消えた春』は有名。この本をもとにして映画『人間の翼 最後のキャッチボール』が作られた。また、当時海軍報道班員として鹿屋基地に滞在していた作家の山岡荘八がこのキャッチボールに立ち会っており、戦後になってその様子を書き記している。それによると10球投げ終わると石丸は山岡に向かって「これで思い残すことはない。報道班員さようなら」と笑顔で叫んでグラブを放り投げ、飛行場へと去ったという。
1945年5月11日死去(享年22)
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